2010年6月24日木曜日

高齢化の進展

第2章
38 厚生労働白書21
第2節 高年齢者の生活と雇用の安定のための支援
1 高年齢者を取り巻く状況
(1)高齢化の進展
第1章第2節で見たように、我が国は今後、一層高齢化が進展する見通しとなっている。国立社会保障・
人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成18 年12 月推計)」の出生中位・死亡中位の推計によれば、
65歳以上人口の割合は、2005(平成17)年は20.2%であるが2030(平成42)年に31.8%、2055(平成67)
年に40.5%となることが見込まれている。
(2)所得の状況
高齢期の所得保障として、老齢年金がある。公的年金制度は、現役世代が納める保険料により現在の高齢
者の年金給付をまかなうという世代間扶養の仕組みによって成り立っているため、賃金や物価に応じて給
付額を調整して高齢期の生活の支えとして実質的に価値ある水準の年金を支給することができるとともに、
受給権者が亡くなるまでの間、終身にわたって年金支給が保障されることとなっていることから、老後の
所得保障の主柱となっている。
実際に、高齢者世帯(65歳以上の者のみで構成するか、又はこれに18歳未満の者が加わった世帯をいう。)
の年金受給状況を厚生労働省大臣官房統計情報部「平成20年国民生活基礎調査」により見ると、所得(2007
(平成19)年では平均298.9 万円)の約7割を公的年金が支えており、公的年金を受給している世帯の約
6割は公的年金のみで生活している(図表2-2-1)。
(3)雇用の状況
高齢者の就業状況について見ると、男性の場合、就業者の割合は、55~59歳で90.1%、60~64歳で68.8%、
65~69歳で49.5%となっており、60歳を過ぎても、多くの高齢者が就業している。また、不就業者であっ
ても、60~64歳の不就業者(31.2%)のうち5割以上の者が、65~69歳の不就業者(50.5%)のうち4割以
上の者が、それぞれ就業を希望している。
第1部
第2章
様々な場面における、個人の自立と社会の安定に向けた取組み●第2章
厚生労働白書21 39
また、女性の就業者の割合は、55~59歳で62.2%、60~64歳で42.3%、65~69歳で28.5%となっている。
また、不就業者であっても、55~59 歳の不就業者(37.8%)及び60~64 歳の不就業者(57.7%)のうち3
割以上の者が、65~69 歳の不就業者(71.5%)のうち2割以上の者が、それぞれ就業を希望している(図
表2-2-2)。
少子高齢化の急速な進行により、今後、労働力人口の減少が見込まれる中で、高齢者の能力の有効な活用
を図ることが重要である。このため、高年齢者雇用安定法に基づき、高年齢者雇用確保措置の実施が義務
づけられている(図表2-2-3)。
第2章
40 厚生労働白書21
高年齢者雇用確保措置の実施状況を見ると、2008(平成20)年6月1日現在、96.2%の企業で実施済み、
企業規模別では、301人以上の大企業で99.8%、51 人~300人規模企業においても95.6%と着実に浸透して
きており、60歳以上の常用労働者は大幅に増加している(図表2-2-4、図表2-2-5)。
一方で、2008年秋以降の経済情勢の悪化が、今後、高年齢者の雇用へも影響を及ぼすことが懸念される。
2 高年齢者の生活と雇用の安定のための支援の取組み
􀀁で述べたとおり、高齢期の所得を支える公的年金については、高齢者世帯の平均収入の約7割をカバー
するとともに、約6割の高齢者世帯は、収入のすべてを公的年金だけで生活しており、核家族化、少子高
齢化の進展の中で、高齢期の生活に大きな役割を果たしている。
第1部
第2章
様々な場面における、個人の自立と社会の安定に向けた取組み●第2章
厚生労働白書21 41
一方、我が国においては、他の先進国に比べて高齢者の労働力率が高く、今後とも意欲のある高齢者が働
き続けられるようにすることが重要である。特に、我が国経済社会の活力を維持するためにも、高い就労
意欲を有する高齢者が長年培ってきた知識と経験をいかし、社会の支え手としていきいきと活躍し続ける
ことが重要となっている。
このため、高年齢者の安定した所得保障と雇用機会を確保することが重要である。公的年金制度について
は、制度の持続可能性の確保に加え、低年金・無年金問題への対応等、基礎年金の最低保障機能の強化等
が課題となっており、また、雇用機会の確保については、厳しい雇用失業情勢に対応しつつ、少子高齢化
等を踏まえ、希望者全員が65歳まで働ける継続雇用制度など高年齢者雇用確保措置の充実や、65歳を超え
ていくつになっても働ける社会の実現が重要である。
􀀁
(1)所得の保障
高齢者の安定した所得保障については、公的年金制度が我が国の老後の所得保障の主柱であり、国民生活
に不可欠の存在となっている。公的年金制度については、世代を超えて制度が安定的に運営されることが
国民の制度に対する信頼を確保する必須の条件である。そのため、平成16年年金制度改正において、長期
的な給付と負担の均衡を確保し、制度を持続可能なものとするための見直しが行われ、着実に実施されて
きた。
(基礎年金国庫負担割合の引上げ)
基礎年金の国庫負担割合については、平成16年年金制度改正において、従前の3分の1から2分の1に
引き上げる道筋を示した。
この道筋を踏まえ、各年度において基礎年金国庫負担割合の段階的な引上げを実施するとともに、2009
(平成21)年通常国会において、2009年度からの基礎年金国庫負担割合2分の1を実現するための「国民
年金法等の一部を改正する法律等の一部を改正する法律」が成立・公布されたところである。
(基礎年金の最低保障機能の強化等)
年金制度の成熟化により、40 年加入の満額年金を受給する高齢者が多数現れるようになった昨今、高齢
者間の所得格差が拡大しているとの指摘等と相まって、無年金・低年金者が存在するという実態に焦点が
当たるようになってきている。
こうした中、2008 年末に閣議決定された「持続可能な社会保障構築とその安定財源確保に向けた『中期
プログラム』」において示された社会保障機能強化の工程表を受け、上述の「国民年金法等の一部を改正
する法律等の一部を改正する法律」の附則には、基礎年金の最低保障機能強化等に関する検討を進め、必
要な安定財源を確保した上で段階的にその具体化を図る旨の検討規定が盛り込まれている。今後は、「中
期プログラム」やこの検討規定等に基づき、安定財源確保への道筋についての議論を踏まえつつ、基礎年
金の最低保障機能強化等の具体策を確立していくことが課題である。
(2)雇用機会の確保
(高年齢者雇用確保措置の着実な実施及び充実等)
高齢者の雇用機会の確保については、65 歳までの者の雇用の確保を図ることが不可欠であり、高年齢者
雇用確保措置の確実な実施を図る必要がある。
このため、高年齢者雇用確保措置の未実施企業への助言・指導や31人以上の企業に対する重点的な指導
などを行うとともに、これに加えて、継続雇用制度において希望者全員を対象とする企業の増加を図るな
ど、より充実した高年齢者雇用確保措置が講じられるよう、企業に対して働きかけていくこととしている。
また、ハローワークにおいてきめ細かな職業相談・職業紹介を行っている。
(高年齢者の雇用機会の確保のための事業主に対する助成措置)
高年齢者の雇用機会の確保に資するため、定年引上げ等奨励金(65 歳以上への定年引上げ、希望者全員
を対象とする70歳以上までの継続雇用制度の導入又は定年の定めの廃止等を実施した中小企業事業主等に
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対して助成する)、中高年トライアル雇用奨励金(中高年齢者(45 歳以上)を試行的に受け入れて雇用す
る事業主に対して、試行雇用奨励金を支給(1人当たり月額4万円・支給期間最長3か月)する)、特定
求職者雇用開発助成金(高齢者等をハローワーク等の紹介により、継続して雇用する労働者として雇い入
れる事業主に対して賃金相当額の一部を助成する)等を積極的に活用することにより、事業主による高年
齢者の雇用の場の確保を進めている。
􀀁
(70歳まで働ける企業の実現)
意欲と能力があれば65歳までに限らず、年齢にかかわりなく働くことができる社会の実現に向けた取組
みを進めていくことが重要であり、65歳までの雇用の確保を基盤としつつ、団塊の世代が2012(平成24)
年には65 歳に到達し始めることを見据え、当面は「70 歳まで働ける企業」の普及・促進を図るなど、60
歳代半ば以降の高齢者が働ける職場を拡大していくこととしている。
さらに長期的には、年功的な賃金制度の見直しや職業能力評価制度の充実等と相まって、一律の定年制で
はなく、職業生活からの引退時期を働く人一人一人が選択できる制度づくりが期待される。
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高年齢者については、所得の保障を行いつつ、就労意欲のある高年齢者が長年培ってきた知識と能力をい
かすことのできる場を確保することは、高年齢者自身が安定した生活を送り、生きがいのある人生を送る
ために重要であるとともに、我が国の経済活力の維持の観点からも重要であり、公的年金制度の持続可能
性の確保のための取組みや、高年齢者の雇用機会の確保のための取組み等が行われている。

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