第1部
第2章
様々な場面における、個人の自立と社会の安定に向けた取組み●第2章
厚生労働白書21 17
第2章
様々な場面における、個人の自立
と社会の安定に向けた取組み
第1節 若者の自立支援
バブル経済崩壊以降、厳しい雇用情勢の中で若者の就職環境も厳しいものとなり、いわゆる就職氷河期が
続き、フリーターが増加した。また、足下の厳しい経済情勢の影響を受けて、2008(平成20)年秋頃から
新規学卒者の採用内定取消しという事例が見られている。さらに、仕事に就いておらず、家事も通学もし
ていないいわゆるニートも存在している。
本節では、このように様々な問題に直面している若者について、自立を取り巻く状況を明らかにするとと
もに、自立支援の取組みについて述べる。
1 若者を取り巻く状況
(就職氷河期における若者の状況)
バブル経済崩壊以降、厳しい雇用情勢の中で若者の就職環境も厳しいものとなり、いわゆる就職氷河期が
続いた。
この間の状況を概観してみよう。まず、就職率・就職内定率(就職希望者のうち就職(内定)者の占める
割合)と求人倍率を見てみると、大卒では求人倍率は1990(平成2)年の2.77 から2000(平成12)年に
は0.99に、就職率は調査を開始した1997(平成9)年の94.5%から2000年に91.1%まで落ち込んだ。高卒
についても、求人倍率は1990年の2.57から2003(平成15)年の1.21に、就職内定率は1990年の99.2か
ら2002(平成14)年の89.7に落ち込んだ(図表2-1-1)。
完全失業率を見ると、もともと若年層は、中高年層と比べると失業率の水準が高い傾向にある中で、全年
齢では2002年に5.4%、15~24歳層では2003年に10.1%、25~34歳層では2002年に6.4%のピークを記録
した後、低下する傾向にあったが、25~34 歳層では全年齢の動きに比べて失業率の改善に遅れが見られて
おり、2008年には再び前年より上昇し5.2%となるなど全体的に高止まりの状況にある(図表2-1-2)。
また、年齢階級別に長期失業者数(失業期間1年以上の失業者数)を見ると、25~34 歳層の長期失業者が
最も多くなっており(図表2-1-3)、長期失業者全体に占める割合は1998(平成10)年までは10%台
後半から20%台前半で推移していたところが、1999年頃から上昇し、20%台半ばから後半で推移するよう
になった。
第2章
18 厚生労働白書21
次に、役員を除く雇用者に占める正規従業員以外の雇用者の割合の推移を総務省統計局「労働力調査(詳
細集計)」により見ると、男性では特に15~24歳層で1995(平成7)年から2005(平成17)年にかけて
大幅に上昇した後高止まりしており、25~34歳層でも55~64歳層とともに2000年から2005年にかけて上
昇した後高止まりしている。また、女性でも15~24歳層は他の年齢層に比べ上昇幅が大きくなっている(図
表2-1-4)。
第1章で述べたように、バブル経済崩壊以降、企業の経営環境が厳しくなる中で、採用の抑制が行われた。
その結果、フリーターが増加する一方で、企業における労働者に占める若年層の割合は低下した。
「フリーター」は、1980 年代後半にアルバイト情報誌による造語として現れた。当初念頭に置かれてい
たのは、何らかの目標を実現するため、あるいは組織に縛られない生き方を望んで、あえて正社員ではな
くアルバイトを選ぶ若者であったという1。フリーターは2003 年にピークの217 万人となったが、財団法
人雇用開発センター「新世代の職業観とキャリア」(2002 年)によると、非正社員として就職した若年者
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第2章
様々な場面における、個人の自立と社会の安定に向けた取組み●第2章
厚生労働白書21 19
のうち、就職活動結果が不本意な者や就職をあきらめた者が合わせて45%近くにも上っており(図表2-
1-5)、また、内閣府「平成16年度青少年の社会的自立に関する意識調査」によると、若者自身の希望
する働き方としては、「非正規雇用者」を希望する者は13.3%であるのに対し、「正社員・正職員」希望
が64.4%を占めており(図表2-1-6)、非正規的な働き方をする若年者の増加は、必ずしも若年者の
就業意識のみによるのではないことがうかがえる。
第2章
20 厚生労働白書21
第1部
第2章
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2002 年から景気が回復局面に入る中で、フリーター数は2004(平成16)年以降減少傾向にあるものの、
減少しているのは15~24 歳層が中心で、25~34 歳層の年長フリーター層では改善に遅れが見られている
(図表2-1-7)。
また、ニートに近い概念として、総務省「労働力調査」における「若年無業者」の数を見てみると、1990
年代は40 万人台であったが2002 年には64 万人に増加し、その後も60 万人強の水準で推移している。さ
らに、30歳代後半の無業者の増加も認められるところである(図表2-1-8)。
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22 厚生労働白書21
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様々な場面における、個人の自立と社会の安定に向けた取組み●第2章
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こうした中で、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」により常用労働者2に占める若年層(15~34歳)の
割合の推移を企業規模別に見ると、どの企業規模でも長期的に下降傾向にあるが、特に労働者数1,000人以
上規模の大企業で低下幅が大きくなっている(図表2-1-9)。
(フリーター等の若者の再就職が困難となっている背景)
第1章第2節で述べたとおり、我が国においては特に大企業で新卒一括採用が主流となっており、今後に
ついても、新卒採用を増やしていきたいと考える企業が半数を超えている。
新卒一括採用については、新卒者が失業状態を経ることなく、社会人へと円滑に移行することを支える慣
行として一定の効果があり社会的にも受け入れられている一方で、就職活動の時期が新卒採用の厳しい時
期に当たったために、その後も正社員になれない、あるいは不本意な就職をした若者にとって「やり直し」
が難しくなるという面では問題があるといえる。
また、フリーター経験について厳しい評価をする企業が多いことが、若年層のうち年長層の雇用状況の改
善が遅れている背景として存在すると考えられる。厚生労働省「雇用管理調査」(2004 年)により、企業
がフリーターを正規雇用に登用するに当たってフリーター経験をどう評価するかについて見てみると、「評
第2章
24 厚生労働白書21
価にほとんど影響しない」が最も多く61.9%であるが、「マイナスに評価する」が30.3%と「プラスに評
価する」の3.6%よりはるかに多くなっている(図表2-1-10)。
(若者の職業意識の形成)
次に、若者の就職に対する意識について、独立行政法人労働政策研究・研修機構「若年者の離職理由と職
場定着に関する調査」(2007(平成19)年)により見てみると、学校卒業後、最初に就いた勤め先につい
て、「そこだったら就職してもよいと思っていた勤め先だった」が約5割と最も高いものの、「希望する
勤め先は特になかった」とする者が1~2割程度存在しており、就職に対する意識を十分形成しないまま
就職している者も存在している(図表2-1-11)。
一方、企業が若年正社員に望むことや身につけて欲しい能力(3つまで複数回答)について厚生労働省「平
成17年企業における若年者雇用実態調査」により見ると、「職業意識・勤労意欲」、「チャレンジ精神・
向上心」、「マナー・社会常識・一般教養」、「強い責任感」が上位にあがっている(図表2-1-12)。
若者が主体的に進路を選択する態度・能力を育成することが重要であり、そのためには、学校在学中から
職業意識の形成を支援する取組みが重要である。
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第2章
様々な場面における、個人の自立と社会の安定に向けた取組み●第2章
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第2章
26 厚生労働白書21
(昨今の就職状況)
昨今の経済情勢の悪化の中で、新規学卒者も含めた就職状況は厳しくなっており、2009(平成21)年は
2008年に比べ大卒就職率、高卒就職内定率は落ち込んだ(図表2-1-13)。さらに、2010(平成22)年
の新規学卒者の採用計画について、2009 年に比べて「減少」とする事業所割合は「増加」とする事業所割
合を上回り、前年と比較すると「増加」とする事業所割合は減少しており、引き続き厳しい状況が見込ま
れる(図表2-1-14)。
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様々な場面における、個人の自立と社会の安定に向けた取組み●第2章
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2 若者の自立支援の取組み
若者は本来、未来に希望を持って自らの能力をいかし、その実現に向かって努力する年齢層である。とこ
ろが、年長フリーター等は依然として多く、就職氷河期に安定した職に就けず、その後も職業能力形成機
会に恵まれなかった若者も30歳代半ばを迎える状況となっている。彼らは、バブル経済崩壊後の採用抑制
の時期に新卒採用の機会を逸し、その後不安定就労を続ける中で職業能力形成機会に恵まれず、即戦力が
試される中途採用市場における採用も難しいという状況になり、30歳代半ばを迎えてしまっている。また、
企業がフリーターの経歴にマイナスの評価をする傾向にあることもこうした若者の安定雇用の実現を難し
くしている一因となっていると考えられる。
若者が意欲を持って自らの能力を発揮できるよう、自立を後押ししていく必要があるが、特に、年長フリ
ーター等(25~39 歳)については、できる限り早期に安定雇用が実現されないと、将来の自立がますます
困難となることが懸念されるだけでなく、彼らが持てる能力を発揮する機会が失われることは、我が国社
会にとって大きな損失である。また、社会の支え手としても重要な役割を担う若者が安心して生活を送れ
ない状況は、社会全体の基盤を揺るがすことになりかねない。
若者が安定した雇用に就けるようにするために、就職支援と職業能力開発を中心に支援をしていく必要が
あるが、特に年長フリーター等(25~39 歳)についての支援が急務であることから、若者に対する支援の
対象年齢を拡げ、年長フリーター等に対する就職支援や職業能力開発に力を入れていく必要がある。その
際、安心して職業訓練を受けることができるよう、生活面での支援を併せて行うことも重要である。また、
足下の経済情勢は厳しくなってはいるが、企業が、新規学卒以外の若者にも、能力や適性に応じて採用の
門戸を広げることが期待される。
また、自立に向けた課題がより多いのは、ニートと呼ばれる層である。こうした層は、職業意識や基本的
な社会適応面等で問題を抱えている場合も多いため、まずは職業意識の醸成、基礎的な能力の養成や社会
第2章
28 厚生労働白書21
適応支援などの取組みが必要であり、こうした包括的支援によって本来の意欲と能力を発揮できるように
後押しをすることが重要である。また、支援機関相互のネットワーク作りも、一人一人の特性を踏まえた
きめ細かい支援体制作りのために重要である。
このため、2008 年4月に取りまとめられた「新雇用戦略」に基づき、就職氷河期に正社員になれなかっ
た年長フリーター等(25~39 歳)に重点を置き、「3年間で100 万人の正規雇用化」を目標として、「フ
リーター等正規雇用化プラン」を推進するとともに、地域若者サポートステーションによるニート等の進
路決定者割合を3割とする目標を定め、ニート等の若者の自立支援の充実を推進することとしている。
さらに、不安定就労やニート等の若者の問題が顕在化している今、若者が自らの個性や適性を理解し、主
体的に進路を選択する能力・態度を育てるため、学校段階からの職業意識形成支援が重要である。このた
め、小中高校生から大学生等の各段階において、関係府省が連携の下、キャリア教育等の取組みを推進し
ている。
一方、昨今の経済情勢の悪化の中で新規学卒者の採用内定取消しが問題となった。新規学卒者の採用内定
取消しは、将来に夢を抱く若者やその家族に大きな打撃と失望を与え、社会全体にも大きな不安を与える
ものであり、あってはならないことである。また、時期的にも、採用内定取消後から新たに就職活動を行
うこととなる中で他の企業は採用活動を終えてしまっているなど、一層の困難を生じるものである。
このため、内定を取り消された若者に対して緊急に支援を行うとともに、今後こうした問題が生じないよ
う内定取消しを未然に防止する措置を講ずることは、喫緊の課題である。
(1)「フリーター等正規雇用化プラン」の推進等
1)年長フリーター、30歳代後半の不安定就労者に重点を置いた就職支援
(ハローワークにおけるフリーター常用就職支援)
ハローワークにおいて、常用雇用を希望するフリーターを支援するために、職業相談、職業紹介、面接会
開催、職場定着支援等といった支援メニューを対象者ごとの課題に応じて組み合わせ、一貫した支援を実
施している。さらに30歳代後半の不安定就労者についても、安定雇用の実現が急務となっており、対象年
齢を広く捉えて若者の就業支援策を実施する必要があることから新たに対象に加え、常用就職支援に取り
組んでいる。
また、年長フリーター層の再就職を支援するため、雇用保険法の改正により、就職困難者が安定した職業
に就いた場合に支給される「常用就職支度手当」について、対象範囲を拡大し年長フリーター層等(40 歳
未満)を追加するとともに、給付率を30%から40%に引き上げた(2009年3月31日施行)。
(年長フリーター等を対象とした模擬面接等「ジョブミーティング」)
中小企業における年長フリーター等の常用就職を促進するため、中小企業の人事担当者による模擬面接等
を行う「ジョブミーティング」を実施している。中小企業の人事担当者に対しては、年長フリーター等に
ついての理解を深め、採用について積極的に検討する機会としてもらい、年長フリーター等に対しては、
模擬面接等を通じて面接場面におけるアピール方法の習得等の支援を行うため、具体的には、模擬面接の
実施や面接結果を踏まえた意見交換会を行っている。また、模擬面接等の過程で人事担当者が実際に自社
での採用を検討したいと考える年長フリーター等がいた場合は、ハローワークが個別のリクエストに応じ
て紹介を行っている。
(ワンストップ型就職支援機関「ジョブカフェ」)
都道府県が主体となり、若者に対する幅広い就職支援メニューをワンストップで提供する通称「ジョブカ
フェ」については、全国46都道府県87か所(2009年4月1日現在)設置されている。厚生労働省として
は、都道府県からの要望に応じてハローワークを併設して職業紹介を実施するほか、企業説明会や各種講
習会等の実施を民間団体等に委託する若年者地域連携事業を通じ、地域の実情に応じた就職支援の取組み
について経済産業省とも連携しながら支援している。
第1部
第2章
様々な場面における、個人の自立と社会の安定に向けた取組み●第2章
厚生労働白書21 29
2)職業能力開発機会の提供
(「ジョブ・カード制度」)
フリーターなどの職業能力形成機会に恵まれない者を対象として、
①ジョブ・カードを活用した、きめ細かなキャリア・コンサルティングを通じた意識啓発やキャリア形成
上の課題の明確化を行い、
②企業実習と座学などを組み合わせた実践的な職業訓練(職業能力形成プログラム)を提供するとともに、
③職業訓練での企業からの評価結果や職務経歴などをジョブ・カードとして取りまとめる
ことにより、就職活動やキャリアアップに活用する「ジョブ・カード制度」が2008(平成20)年4月に創設
された。
ジョブ・カード制度の実践的な職業訓練には、企業が訓練生を雇用して実施する雇用型訓練と、民間教育
訓練機関などに委託し、公共職業訓練として実施する委託型訓練がある。
委託型訓練では、雇用保険を受給できない者であっても、訓練期間中の生活保障を行う「訓練・生活支援
給付」制度によって、安心して訓練を受けることができる仕組みとなっている。本制度は、主たる生計者
であるなどの要件を満たす者に対して、単身者は月額10 万円、扶養家族がある場合は月額12 万円を支給
し、さらに、生活費が不足する者に対して、それぞれ上限5万円又は8万円の貸付けを行うものである。
ジョブ・カード制度により、フリーターなどの若者が、その能力を向上させ、安定した雇用へと移行する
ことが期待されている。
(「再チャレンジコース」)
各業界団体と連携して年長フリーター等向けの職業訓練コースを開発し、民間教育訓練機関などに委託し
て、業界で必要とされる能力を習得するための効果的な訓練を行う「再チャレンジコース」を実施してい
る。
3)若者の雇用促進のための事業主に対する支援
(年長フリーター等の正規雇用化のための奨励金の創設)
年長フリーター等の正規雇用化を推進するため、
①年長フリーター等(25~39 歳)を積極的に正規雇用(ア直接雇用、イ「若年者トライアル雇用」を活
用、ウ「ジョブ・カード制度」の雇用型訓練のうち「有期実習型訓練」修了者を正規雇用、の場合があ
る)する事業主
又は
②採用内定を取り消されて就職先が未決定の学生等を正規雇用する事業主
に対する奨励金(「若年者等正規雇用化特別奨励金」)を平成20年度第2次補正予算において新たに創設
したところであり、対象者1人につき中小企業には100万円、大企業には50万円を支給(3年間にわたり
3回に分けて支給)することとしている。
(「ジョブ・カード制度」の雇用型訓練実施企業への助成)
ジョブ・カード制度の雇用型訓練を実施する事業主に対し、訓練の経費及び訓練中の受講者の賃金につい
て、中小企業は5分の4、大企業は3分の2を助成している(「キャリア形成促進助成金」)。
(「若年者等トライアル雇用」)
若年失業者の常用雇用への移行や雇用のきっかけ作りを図るため、短期間(原則3か月)試行的に雇用す
る事業主に対して支援(対象者1人当たり月額4万円を最大3か月支給)を行う「若年者等トライアル雇
用」を実施している。平成20年第1次補正予算により、対象者を40歳未満まで拡大したところである。
第2章
30 厚生労働白書21
(2)ニート等の若者の自立支援の充実等
(「地域若者サポートステーション」における就労支援)
ニート等の若者については、一人一人の抱えている問題をよく把握し、それに対応して職業意識の醸成、
基礎的な能力の養成や社会適応支援など包括的な支援を行うことにより、本来の意欲と能力を発揮できる
よう後押しすることが重要である。また、支援機関相互のネットワーク作り等を進め、一人一人の特性を
踏まえた、きめ細かく継続的な支援ができる体制の整備が重要と考えられる。
このため、ニート等の若者が職業的自立に関して抱えている様々な問題を地域全体で支えるという観点か
ら、地方公共団体との協働により、地域の若者支援機関からなるネットワークを構築するとともに、その
拠点となる「地域若者サポートステーション」を設置し、専門的・継続的な相談やネットワークを活用し
た誘導など、多様な就労支援メニューを提供している。2009年度からは支援対象年齢を30歳代後半まで拡
大している。
(「若者自立塾」における就労支援)
また、様々な要因により働く自信をなくした若者を対象として、合宿形式による集団生活の中での労働体
験やボランティア活動等を通じて、働くことについての自信と意欲を持ってもらい就労等へと導く「若者
自立塾」事業を実施している。本事業についても、2009年度から支援対象年齢を30歳代後半まで拡大して
いる。
(「子ども・若者育成支援推進法」の成立)
ニート・ひきこもり等社会生活を円滑に営む上での困難を有する若者等への支援を行うための地域ネット
ワークづくりの推進を図ることや、教育、福祉、雇用等各関連分野における施策の総合的推進を内容とし
た「子ども・若者育成支援推進法」が2009年7月に成立した。
(3)学校段階からの職業意識形成支援
不安定就労やニート等の若者の問題が顕在化している今、若者が自らの個性や適性を理解し、主体的に進
路を選択する能力・態度を育てるためのキャリア教育等の取組みが重要である。キャリア教育等について
は、2007年に「キャリア教育等推進プラン」が策定され、関係府省とともに取組みを推進している。
(小中高校生に対する職業意識形成支援)
小中高校生に対する職業意識形成支援としては、ハローワークが、学校、産業界と連携し、企業人等働く
人を講師として学校に派遣し、職業の実態や働くことの意義等を生徒に理解させ自ら考えさせる「キャリ
ア探索プログラム」を実施している。また、主に高校生を対象として、生徒が短期間の就業体験を通じて、
自らの適性と職業の関わりを考える契機とする「ジュニア・インターンシップ」を高校等と連携して、実
施している。
また、若者の円滑な就職活動を支援し、早期離職や安易なフリーター・ニート化を防止するため、「高校
生職業ガイダンス」を実施しており、就職を希望する高校2年生・3年生を対象に、職業選択、就職活動
の進め方等のほか、就職後に必要となる労働関係法令の基礎知識についても情報提供を行っている。
(大学生等に対する職業意識形成支援)
大学生等に対しては、大学等と連携し、適職選択のための自己理解等を促進する各種セミナー等を実施し
ているほか、インターンシップ受入企業開拓事業を事業主団体に委託して実施している。
(4)採用内定取消し問題への対応
足下の経済情勢の悪化により企業の経営環境が厳しくなる中で、2008 年秋頃から新規学卒者の採用内定
取消しの事例が見られるようになり、これらの問題に的確に対応し、内定を取り消された者に対する支援
を行うとともに、内定取消しの防止等を図るための取組みを強化することが急務である。
第1部
第2章
様々な場面における、個人の自立と社会の安定に向けた取組み●第2章
厚生労働白書21 31
このため、採用内定取消しの通知を受けた大学生等からの相談に対応するための特別相談窓口を全国の学
生職業センター等に設置したほか、事業主が新規学卒者の採用に当たり考慮すべき事項を取りまとめた「新
規学校卒業者の採用に関する指針」の周知に努めている。また、大学等と学生職業センター、ハローワー
ク等の緊密な連携のもと、採用内定取消しに関する情報の的確な把握や特別相談窓口に関する学生への情
報の提供に努めている。
さらに、
①内定を取り消された者に対する支援として、(1)で述べたとおり、「若年者等正規雇用化特別奨励金」
について、内定を取り消されて就職先が未決定の学生を正規雇用する事業主も、特例措置として同奨励
金の支給の対象とすることとした。
②内定取消しの未然防止策として、2009 年1月に省令の改正等を行い、ハローワークが内定取消し事案を
一元的に把握することとするとともに、基準を満たすものについては企業名を公表することができるこ
ととした。
また、新卒者の雇用の安定を確保するため、新卒採用後直ちに教育訓練・出向・休業をさせて雇用を維持
する場合も、雇用調整助成金等の対象に特例的に追加し、賃金・手当の5分の4(大企業3分の2)を助
成することとした。
いわゆる就職氷河期に正社員となれなかった層が30歳代半ばを迎える状況となっており、本来働き盛り
かつ社会の支え手であるべき年齢層に入ってきている。職業能力面や経済面で蓄えの薄い不安定就労を続
けている若者に対しては、生活面での支援も行いつつ、能力を身につけ安定的な職に就くことができるよ
う、就職支援を行うことが重要である。
また、職業意識や基本的な社会適応面等で問題を抱えているニート等の若者に対しては関係機関のネット
ワーク等による包括的支援が重要である。
こうした取組みは、若者自身のためであるばかりでなく、我が国の活力を維持し、社会の支え手を将来に
わたって確保する観点からも、我が国の持続的発展のための基盤に関わる喫緊の課題である。
第2章
32 厚生労働白書21
コラム
厚生労働省では、キャリア教育の取組みの一つ
として、ハローワークと高等学校等が連携して
「ジュニア・インターンシップ」(以下「インタ
ーンシップ」という。)を実施しているところで
あり、ここではハローワーク喜多方(福島県)の
取組みを紹介する。
ハローワーク喜多方では、2007(平成19)
年度、地域の高等学校4校の2年生(合計316
名)を対象に、9月から11月の間、学校単位で
3日間のインターンシップを実施した。
実施に当たっては、まず、生徒が目的意識を持
って臨めるよう、インターンシップの1週間前に
ハローワークの職員から生徒に対し、実施の目的
や心構え、マナーの指導、高卒生の就職・離職状
況などの説明を行った。
インターンシップの実施先については、生徒の
希望をもとに様々な業種でインターンシップを
体験できるよう配慮し、地域の福祉、保健、製造、
建設、小売、サービス業など多岐にわたる業種の
事業所に協力を依頼し、51事業所の協力を得た。
生徒が行き先の希望を提出する際は、単に事業所
名を挙げるのではなく、その事業所を希望する理
由や自己紹介、インターンシップ中の通勤方法な
どを書くようにするなど、積極的に取り組めるよ
うな工夫をした。
各事業所における3日間のインターンシップ
は、事業所が作成した実施計画に基づき進められ
た。生徒達はまず、会社の概要、職場でのルール、
安全上の注意や守秘義務、スケジュールの説明、
自己紹介などのオリエンテーションを受け、その
後、例えばスーパーマーケットでは調理補助や品
出しパック詰め、病院ではベッドメイキングや食
事・歩行・入浴・排泄等の介助、患者とのコミュ
ニケーションといった実際の業務体験が始まっ
た。3日間のインターンシップの間、生徒は「ジ
ュニア・インターンシップ体験日誌」を毎日記入
し、実習先からコメントをもらうことで振り返り
ができるようにした。
そして、インターンシップ終了後には、事業所
での体験を今後の職業選択に反映できるよう、各
学校で進路指導担当の教員が中心となって事後
講習会を実施した。事後講習会では、生徒達がそ
れぞれの体験内容、感想や反省点などを発表し意
見交換することで、互いの経験を共有した。生徒
からは、「人と人とのふれあいはとても大切だと
実感した」、「社会人になるのがとても不安だった
が、今回の職場体験で不安も少し無くなり、前向
きな心が出てきた」、「職に就くということの厳し
さと同時に、その楽しさも体感できた3日間だっ
た」などの感想が寄せられた。また、インターン
シップ先からは、「初日は、不安と緊張で心もと
なく感じられたが、3日間の体験で最終日には見
違えるほどの成長が見られた」、学校からは、「働
くということがどういうことなのか、肌で実感で
きたと思う」、「初対面・初めての職場でやり遂げ
た体験は、生徒にとってかけがえのない自信につ
ながると思う」などとのコメントが寄せられた。
第1部
第2章
様々な場面における、個人の自立と社会の安定に向けた取組み●第2章
厚生労働白書21 33
コラム
ジョブ・カード制度における職業能力形成プロ
グラムのうち、有期実習型訓練は、フリーター等
正社員経験が少ない人に実践的な訓練を行うこ
とにより、訓練実施企業又は他の企業における常
用雇用を目指すものである。
企業は、この制度を新たに雇い入れて訓練を実
施する場合や、既に雇用している自社内の非正規
労働者に訓練を実施する場合に活用することが
できる。
後者の例としてこの制度を活用している株式
会社フレスタは、食品を中心に扱うスーパーマー
ケットで、広島県内を中心に50店舗を展開して
いる。スーパーマーケット業界においては、パー
トやアルバイトの戦力化が業界共通の課題とな
っていることから、フレスタでは、2008(平成
20)年度からパート社員の正社員への登用制度
に、ジョブ・カード制度における有期実習型訓練
を活用している。
訓練の対象者は「2年以上勤務のパートタイマ
ー」で、「おおむね40 歳までの者」、「管理監督
者の推薦が得られる者」として、社内LANや社
内報、ポスターなどで募集し、集まった15名の
希望者の中から、書類選考などで6名の訓練生を
選定した。訓練生の内訳は、最年長が30歳代半
ばで、他は22~25 歳と若い人が多く、6人中
3人はフリーターで、「就職について悩んでいる
うちに就職活動の時期を逃してしまい、何となく
スーパーで2年以上勤めているうちに、スーパー
の仕事が楽しくなったので応募した。」という者
が多かったという。
訓練には大きく分けてOJTと座学とがある。
OJT は11 月から3月まで行われ、4月に新卒
の社員と一緒に座学を受けて訓練は終了する。ま
た、フレスタでは、正社員への登用の条件として
「S検(注)ベーシック1級」の合格を課しており、
訓練生は、9月から通常のパート業務とS 検合
格に向けた受検勉強を両立させ、訓練期間中の
11月にS検を受検し、合格した者は4月に正社
員雇用契約される。
OJT の期間中は、訓練生は日報をつけ、週に
1度店長との面接を受けた。また訓練の評価に
は、厚生労働省が公表しているスーパーマーケッ
ト業のモデル評価シートを自社向けに作り変え
たものを用いて部門長が行い、訓練の状況は部門
長と店長が共有した。
フレスタでは、ジョブ・カード制度を活用する
ことのメリットとして、正社員登用制度の透明性
が確保できることや、訓練生がジョブ・カードの
記入を通じて自分を振り返ることができるとと
もにOJTによって仕事に対する姿勢が積極的に
変化したことを挙げている。また、訓練中の評価
に用いた評価シートは、今後全社的な人事制度に
効果的に使用できるのではないか、と考えてい
る。
(注) 「S 検」とは、社団法人全国スーパーマー
ケット協会が実施し、認定している「スーパーマ
ーケット検定」のこと。スーパーマーケット業界
の従業員の能力を客観的に測る階層別・職種別の
検定制度。
第2章
34 厚生労働白書21
コラム
株式会社ヤマナカ重機は、千葉市内で産業車両
などの製造を手がける企業であり、クレーンを始
め、鉄道用の特殊車両や地盤改良機等の大型機械
などを製造している。
現在、従業員数は28名であるが、社員の平均
年齢は高く、新工場への移転を控えて若手社員の
確保・育成が課題となっている。
同社では、これまで、ハローワークを通じて中
途採用者を10数人採用したことがあるが、求人
条件を「溶接経験者」としていたため40歳代後
半が多く、仕事のやり方が合わない等ですぐに辞
める人が多かった。また、学卒者は年齢が若すぎ
て仕事に対する意識が十分ではなく、なかなか戦
力にはならない状況だった。このように雇用ニー
ズが満たされない中で、「仕事に対して前向きな
意欲のある若手を採用したい」という同社の思い
に、ジョブ・カード制度における有期実習型訓練
は適していた。
ハローワークを通じて3名の訓練生を募集し
たところ1名の応募があり、約3か月間、主要業
務となる製缶・溶接工として実際に働きながら訓
練を受けてもらい、最終的には正社員として採用
された。
訓練生の教育には溶接業40 年のベテラン従
業員がマンツーマンで指導に当たるとともに、
OJT 日誌に訓練状況を記録して社長に報告し
た。訓練生からの報告には「訓練期間中に仕事の
難しさ、楽しさを学んだ。これから経験を積んで、
いずれは会社に必要な人材になりたい。」とあっ
たという。
同社では、ジョブ・カード制度の利点は、「第
三者が客観的な立場で就職希望者を評価してく
れるところ」であるという。これまでは、人柄も
仕事に対する考え方もよくわからないままに採
用してすぐに辞められてしまうというケースが
あったが、ジョブ・カード制度では、真剣に仕事
をしたいと考える求職者は、第三者(ハローワー
ク等のキャリア・コンサルタント)にジョブ・カ
ードに記載されたこれまでの職務経験や就業に
関する希望や目標について客観的に評価しても
らった上で、訓練を実施する企業を紹介される。
企業側は、一定期間の訓練後、訓練生を評価し、
双方の考えがマッチングした場合には、正社員と
して採用できる。
正社員として採用された訓練生には、早く会社
や仕事になじんでもらうことが大事であるため、
同年代の社員と食事に行かせるなど一人で悩ま
ないように配慮しているが、「自らやろうという
気があれば、後は努力さえすれば特段問題はな
い。採用後のフォローは必要だが、まずは訓練生
を働かせてみないと前には進めないので、まずは
現場で実践してもらうことを大事にしている。」
という。
同社では、「ジョブ・カード制度は、求職者の
意欲を伝えてくれる。企業側が『人材を育てる』
という気持ちで制度を見れば、価値ある制度」で
あると捉え、今後もこの制度を活用していく予定
である。
第1部
第2章
様々な場面における、個人の自立と社会の安定に向けた取組み●第2章
厚生労働白書21 35
コラム
足立区では、若者の職業的自立を支援するた
め、北千住駅前に、「あだち若者サポートステー
ション」(以下「サポステ」という。)を開設して
いる。
サポステでは、個々の若者が置かれている状況
や就労のニーズに対応できるよう、正社員を目指
す若者に対する就職活動セミナーやキャリア・カ
ウンセリング、アルバイトから始めたい若者に対
するセミナー、清掃ボランティア活動など多彩な
プログラムが展開されている。特に、社会参加の
難しい若者については、サポステを積極的に利用
してもらえるよう、保護者からの相談に対応して
いる。また、サポステまで来られない若者に対す
る支援窓口としてサポステとは別に「ひきこもり
セーフティネットあだち」を区内竹の塚に開設
し、電話相談や訪問相談などきめ細かな支援を行
っている。
これらの支援は、足立区、サポステ事業委託先
の特定非営利活動法人、ハローワーク足立が連携
し、役割分担を明確にしつつ一体となって取り組
んでいる。例えば、若者をサポステに集めるため
のPRは「足立区」の名前を全面的に出して積極
的に行い、その際の配布物の作成や、サポステに
おける多彩なプログラムの企画は若年者支援の
ノウハウを持つ特定非営利活動法人が担う。そし
て、就労支援に当たっては、サポステと同じフロ
アにあるハローワークと情報交換をスムーズに
行うほか、利用者も交えた三者でカウンセリング
を行い、就職に向けた一体的な支援を行ってい
る。
サポステの利用者からは、「おかげで就職でき
ました」というお礼の手紙が3年間で180通寄
せられるなど、年々実績を高めている。
2009(平成21)年度から始まっている「訓
練就労サポーター制度」は、自立支援の「出口」
に当たる部分を手厚くするため、サポステでの就
業訓練だけではなく、実際の企業において就労を
体験することで、より実践に近い訓練を行うこと
を目的とした足立区独自の取組みである。
具体的には、サポステ利用者で一般就労になか
なか至らない若者が、受入れ企業においてより実
践的な訓練を受けるもので、これによって、若者
が自分の足りない点や良い点を再確認し、就労に
つなげることが期待できる。
足立区は、商工会議所・法人会の協力を得なが
ら、訓練就労を受け入れてくれる企業を「訓練就
労サポーター企業」として確保することとしてい
る。
訓練では、サポステの運営も行っているが業務
遂行の支援を行うこととし、特定非営利活動法人
のコーディネーターを含む複数人でチームを組
んで、工場やスーパーのバックヤードでの作業等
から始めることを予定している。そして、訓練就
労修了後は、訓練就労で達成したこと、うまくい
かなかったこと等について、訓練生のチームに入
った特定非営利活動法人のコーディネーターが
評価し、その後、一般就労を目指す、又はサポス
テに戻って再支援を受ける、という流れを予定し
ている。
訓練就労サポーター制度での経験は、履歴書に
書くこともできることから、本人の職業キャリア
にもなる。また、「訓練就労サポーター制度」を
設けることによって、同制度がサポステとハロー
ワークの中間地点として機能し、若者が社会に出
るまでのハードルを低くすることができる、と足
立区では考えている。
このように、足立区による若者の自立支援の特
徴は、サポステにおける支援を大きな柱としつ
つ、「ひきこもりセーフティネットあだち」によ
って支援の「入口」部分を広げ、「訓練就労サポ
ーター制度」によって、就労支援の「出口」の部
分を強化した点にあると言えよう。
第2章
36 厚生労働白書21
コラム
特定非営利活動法人アンガージュマン・よこす
かは、不登校、ひきこもり、ニートといった若者
と周囲の方々が共に社会参加を目指す法人で、現
在、不登校やひきこもりの人の居場所の提供、小
学生から高校生の学習サポート、相談・カウンセ
リングや就労支援を行っている。
不登校やひきこもりの方に対する支援プログ
ラムの一つに、販売士3級資格の取得と実際の就
労訓練によって自立を促す「キックオフプロジェ
クト」があり、その研修の場、研修修了者の就労
体験の場として、同法人が運営しているのが「は
るかぜ書店」である。
はるかぜ書店のオープンは2006(平成18)
年5月。もともと市内の別の商店街で障害者福祉
関連の書籍を扱う書店を経営していたオーナー
から、アンガージュマン・よこすかの若者の研修
先として書店を使ったらどうか、という申し出が
あり、オーナーや書店取次業者の協力、神奈川県
の「かながわボランタリー活動推進基金21」の
助成を受け、現在の場所に新装開店した。
品揃えについては、障害者福祉関連書籍のほ
か、書店が大通りに面していることもあり、雑誌
を充実させている。また、絵本や文庫本のほか、
福祉作業所で作られたマスコット人形なども店
頭に並ぶ。
書店には現在、キックオフプロジェクトを修了
した若者2名と、アンガージュマン・よこすかの
職員2名が勤務し、書籍の仕入れから、販売、レ
ジといった業務全般は、キックオフプロジェクト
を修了した若者同士が話し合って自主的に行い、
職員はその業務を補完している。書店業務は、他
の販売業と比べて、客との値段交渉をする必要が
なく、肉体的重労働ではないことなどから、「ニ
ートやひきこもりの若者が仕事を始めやすいの
ではないか」とアンガージュマン・よこすかでは
考えている。
はるかぜ書店での実務は、半年もあればおおむ
ね身につくという。アンガージュマン・よこすか
では、「長くて1年半ほどはるかぜ書店に通って
もらえれば良い」とし、実務経験を積んだ若者が
はるかぜ書店を卒業した後は、自分の好きな道に
進んでもらいたいとしている。ニートやひきこも
りの若者が「学校を出て勤め人になること=就
職」と考え、それが出来ずに悩んでしまうことに
対して、商店街で様々な仕事を見て体験すること
を通じて、「色々な働き方があるんだ」と広い視
野で見られるようになることが重要であると考
えている。
はるかぜ書店の経営には、地元の上町商店街を
中心とする「地域の理解」が欠かせない。もとも
と、商店街の理事会は懐が深くアンガージュマ
ン・よこすかの設立も満場一致で受け入れた。「若
い人に率先して商店街を盛り上げてもらいたい」
という考えから、商店街の人達の若者達に対する
理解も進み、キックオフプロジェクトが修了した
若者の就労体験を受け入れてくれる店舗も出て
きている。
第1部
第2章
様々な場面における、個人の自立と社会の安定に向けた取組み●第2章
厚生労働白書21 37
コラム
特定非営利活動法人福井県セルプ振興センタ
ー(以下「セルプ振興センター」という。)は、
障害のある方々の豊かな社会生活と就労などの
自立支援を目的に、福井県内の社会福祉施設が連
携し、発展的に展開する障害者自立支援拠点とし
て2006(平成18)年に設立された法人である
(同県内の46か所の施設が加盟している。)。
セルプ振興センターは、厚生労働省が若年無業
者等の若者の社会的自立を支援するために設置
する「地域若者サポートステーション」を運営し
ている。
また、地域で生活する障害のある方々を支援の
対象として、①社会福祉施設で製造している商品
の販路開拓や、②企業から委託された箱折・袋詰
めや印刷物の製作、プラスチック成型加工・組立
などの業務の社会福祉施設への仲介を行ってい
る。①の事業では、加盟施設が製造の一工程を担
っているコーヒー豆の販売事業を拡大するため、
コーヒーを実際に飲んでもらうことによってブ
ランドの認知度を高めるアンテナショップとし
て、2009年(平成21)1月にカフェ「1/f」
(えふぶんのいち)をオープンした。
「ふくい若者サポートステーション」(以下「サ
ポステふくい」という。)では、働きたくても働
けない若者に対する相談支援や、自立支援プログ
ラムを実施している。同プログラムの中には、テ
ーマに添って話し合いを行う「グループワーク」
や、若者が自発的に参加し情報交換を行う「サポ
ステカフェ」(フリースペース)、就労に役立つ講
座やミニ労働体験を行う「チャレンジウィーク」、
セルプ振興センターの直営カフェ「1/f」や同
センター加盟の授産施設等での「就労体験」、「就
労機関の紹介、同行」がある。サポステふくいで
は、同プログラムを通じて、ジョブカフェやハロ
ーワークに行けるようになることを一つの目標
としているが、ハローワークに行けるようになっ
てからも同行サポートや相談を行う場合もある。
また、ハローワークの相談者がサポステに紹介さ
れるケースや、病気・障害等で就業が難しい場合
は医療・福祉機関に支援を依頼するケースもある
など、一人一人の状況に合わせて、関係機関と連
携した支援を行っている。
カフェ「1/f」は、コーヒーや紅茶、ケーキ
のほか、コーヒー豆や同センター加盟の授産施設
で作られたパンや弁当などを販売するとともに、
障害のある方やサポステふくいの利用者の「就労
体験」の場となっている。コーヒーをたてること
などは店長が担うが、接客は彼らが担当する。
カフェには様々なお客様がみえる。そして、皆
様のニーズに応え、くつろいでいただくためにも
接客は彼らにとって、かなりハードルの高い業務
となる。店頭に立ったばかりの頃は声が出なかっ
たりと難しい面も多い。しかし、「お客さんとの
やりとりが毎日繰り返される中で、言葉が出るよ
うになり、慣れてくるというメリットがある。」
とセルプ振興センターでは考えている。
カフェでの就労体験期間は2週間から2 か月
とし、次のステップとして本人の望む道へ進むこ
とを目標としているが、現在は、まだ店がオープ
ンして間もないので、カフェでの経験を今後の就
業に役立ててもらうことを期待している。
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